前稿では、特に若年層の間でサステナビリティを踏まえた消費行動を取るようになってきており、その市場ニーズに呼応して欧米アパレル企業がサステナビリティ戦略を強化していることに触れた。続く本稿では、ブランディングやプロモーションとしてのSDGsの在り方について考えてみたい。

 

ブランディングやプロモーションとしてのSDGsの在り方

陰徳陽報から“陽”徳陽報へ

ブランディングやプロモーションとしてのサステナビリティ/SDGsのわかりやすい成功事例としては、前項でも触れたパタゴニア(米国)や、ユニリーバ(オランダ)、テスラ(米国)などが挙げられる。ユニリーバで2018年末までCEOを務めたポール・ポールマン氏は「サステナビリティを掲げたブランドは、他のブランドより売上伸長が47%速い」と、サステナビリティがブランディングやプロモーションに好影響を与えている旨の発言をしている。またテスラの初期ユーザーは「環境意識が高い(ノブレス・オブリージュを体現する)欧米の富裕層」であり、彼らがインフルエンサーとなって欧米のハイエンド層を取り込んだ。これらの事例を日本人的な価値観で解釈すれば、陰徳陽報(人知れず徳を積めば良い結果がもたらされる)ではなく、”陽”徳陽報(善行を発信することでファンが増え良い結果がもたらされる)と言えるだろう。

 

しかしこれらの成功事例を見て、「日本では消費者が成熟していないから参考にならない」という意見もある。しかし、数は少なく規模も様々だが、日本での成功事例もたしかに出てきているのだ。

 

「プリウス(トヨタ)」黎明期

1997年、世界初の量産ハイブリッド専用車として誕生したプリウス。燃費が安いとは言うものの、本体価格が高いため燃費で回収するのに何年もかかる(利がない)というプロダクトであった。

しかしトヨタは「環境性能(義がある)」という、それまで自動車販売において用いられていなかった新たな指標を「発明」したことで、国内ハイエンド層(インテリ層や富裕層)に受け入れられプリウスの快進撃が始まったという。

 

「光冷暖(KFT)」

2008年、世界初の非ハイブリッド型輻射式冷暖房として誕生した光冷暖。電気代が安いとは言うものの、本体価格が高いため電気代で回収するのに何年もかかる(利がない)というプロダクトであった。

しかしKFTはプリウスのように「環境性能(義がある)」、また「健康性能」という新たな指標を用いることで、国内ハイエンド層(インテリ層、富裕層、医療業界など)に受け入れられ2019年現在、国内外1,300を超える設置事例を誇る。

 

「坂ノ途中」

2009年、「環境負荷の小さい農業の普及を目指す」野菜の製造・販売企業として誕生。自然農法や有機農法は「体にやさしい」「おいしい」とは言うものの、価格が高く、供給も不安定(利がない)。坂ノ途中は「環境負荷」という、それまで野菜販売において用いられていなかった新たな指標を発明したことで感度が高い層の取り込みに成功し、2019年現在、約8,000人に対して野菜を定期販売するに至っている。

 

義という土俵に持ち込み

これらは数ある事例のごく一部であって、私が観測している範囲内のものでしかない。競争戦略のバイブルであるランチェスター戦略的に言えば、「独自の土俵に持ち込む」のはいわば王道である。そのために他者が用いていない指標を発明することは、理にかなっている。これらは戦略として「義という独自の土俵に持ち込み」、戦術として「感度の高い初期イノベーターを取り込む」という、お手本のような事例であると言えよう。

 

翻って国内アパレル企業においては、このようにSDGsを活用できている事例がまだ生まれていないように思える。このような活用事例が量産されるときこそ、サステナビリティやSDGsの発するわずかな「綺麗事・空論の匂い」がゼロ化し、「熱量」を持った共通言語としてさらにアップデートされていくのであろうと私は考えている。

 

社会的責任として。財務戦略として。営業戦略として。あるいは人事戦略として。

サステナビリティ/SDGsの概念/適用範囲は広範で、ゆえにフワフワもしている。

私には、軽やかで、しかし地に足のついた循環をもたらすSDGsが好ましい。

SDGsは責任であると同時に、大いなるチャンスなのだ。

そのチャンスを支援するため、私は『義の人』と『利の人』をつなぐ翻訳者でありたい。

 


大阪大学(理学部物理学科)卒業。在学中から環境、農業、福祉などサステナブル領域のベンチャービジネスに環境エンジニアとして携わる。再生可能エネルギー事業、環境技術の特許売買事業等をライフワークとして継続し、2社の事業売却を経験。京都大学ESG研究会講師(2020年度)。他のコラムはこちら。