サステナビリティ革命 (その3)
~長期ビジョン・長期目標の必要性と必然性~

20世紀型ビジネスモデルは、もはや通用しない。自動車産業をみれば一目瞭然であろう。事業環境の構造変化があまりにも大きいからである。しかし、今のまま「ゆでガエル」を続けると、企業価値の毀損リスクは増す。それゆえ、新しい21世紀型ビジネスモデルが必要である。

そのためには長期的・世界的な観点に立った、地球環境や地球社会の見通しが不可欠となる。そこで今回は、不確実性を含みつつも2030年や2050年の世界を想定したうえで、長期ビジョンや長期目標の必要性と必然性について述べる。

■2030年までに確実に起きること、そして2050年の世界観
〔日本の少子高齢化と世界人口の増加〕
まず日本の人口については、近年減少局面にあり、2016年の将来推計によれば、2030年には総人口1億1912万人、高齢化率は31%となる。外国人労働者は増加するものの、75歳まで働かないと日本社会は持たないだろう。

ちなみに、世界の人口は現在の74億人から2030年には85億人に増え、中でもインドと中国の増加が著しい。中国では既に少子高齢化が始まっているが、世界的には食糧と資源の確保という基本問題が顕在化してこよう。

〔画期的技術革新の進展〕
AI、IoT、ロボティクスという新興の技術革新の大波が産業領域に確実に浸透している。これは20世紀末期のデジタル革命を踏まえた「第四次産業革命」とも位置付けられ、量子コンピュータや3Dプリンター、自動運転車、データサイエンスなどを実現させている。

これらは世界の数十億人を繋ぎ、全体最適をめざして事業の効率性を劇的に改善し、地球環境の保全・再生に役立つ可能性もある。さらに、生物工学ないし遺伝子工学の進展、あるいはiPS細胞による再生医療の発達で、様々な既存概念の境界融解が始まっている。

日本では労働人口の減少を背景に、レジの無人化やICダクが進展し、またドローンによる宅配などにより流通や物流の構造が根本的に変化する。これは、ライフスタイルの変革とともに産業構造も大きく変えることになろう。

〔ESG投資のメインストリーム化〕
2008年のリーマンショックを契機に、過度の短期主義が投資家と企業の双方にもたらす弊害が強く認識された。ESG投資とは、この反省に立って世界の持続可能性と企業の長期的発展に着目し、これにコミットする長期投資の重要性と必要性を再確認する動きと考えられる。

ESG情報は、ESG投資家にとって企業の長期的な発展にコミットするために必要な情報であり、企業にとっては長期投資家を惹きつける重要な情報として位置づけられるようになった。その結果、世界ではESG投資のメインストリーム化が着実に進んでいる。

日本では2014年の日本版スチュワードシップ・コード公表を機に、SRI・ESG投資に無関心だった機関投資家にもESG投資への関心が高まった。それを加速させたのが、2015年のGPIFによる国連責任投資原則(UNPRI)への署名であり、その後、機関投資家の署名が急増している。

〔2050年の世界観〕
SDGs(持続可能な開発目標)が成果をあげ、持続可能なビジネスが成り立つとすれば、以下のことが言える。すなわち、2050年にはCO2排出量はG7で80%削減され、21世紀後半には全世界で実質ゼロの目途が立っている。また技術革新に基づく社会変革も進んでいる。

しかし、社会経済が「現在のまま」で推移した場合には、気候変動とともに飢餓や貧困を含む世界的な格差もさらに拡大している可能性が高い。この解決には人類の本気度にかかっているが、大きな枠組みとして2015年を元年とする「サステナビリティ革命」は動き出している。

■長期ビジョンや長期目標の必要性と必然性
社会経済の不連続性をもたらすイノベーションを背景に、2050年の新しいパラダイムの方向性が見えてくる中で、今こそ、企業は「自社をどういう姿にしたいのか」を真剣に考えねばならない。そうでなければ、18世紀の第一次産業革命で消滅した産業と同じ道をたどることになろう。

ただし、日本企業の財務中心の必達目標に近い中期経営計画にみられるような3~5年計画の発想では、(超)長期のビジョンや経営目標は作れない。いや、検討すらできないだろう。時間軸としては、中期は5~10年、長期は10~20年、超長期は20年以上である。

(超)長期のビジョンや目標の策定に当たっては、その時間軸(例えば2030年とか2040年)における事業環境の基本構造を想定して、自社のビジネスモデルに対するリスク・機会を考慮しつつ、まず「自社のありたい姿」(つまり、ビジョンや目標)を明確に描く。

そのうえで、そこから振り返って現在すべきことを考えること(すなわちバックキャスティング)になるが、中間時点までは現在からそこまでどう至るかというフォアキャスティングによりロードマップを策定する必要がある。

◆ ◆ ◆
次回は、長期ビジョンや長期目標の策定のためのバックキャスティングとフォアキャスティングの併用について述べる。

(つづく)

BC:未来のある時点に目標を設定しておき、そこから振り返って現在すべきことを考える方法。地球温暖化対策のように、現状の継続では破局的な将来が予測されるときに用いられる。

FC:過去のデータや実績などに基づき、現状で実現可能と考えられることを積み上げて、未来の目標に近づけようとする方法。

 


オルタナ総研所長・首席研究員 川村雅彦

前ニッセイ基礎研究所上席研究員・ESG研究室長。九州大学大学院工学研究科(修士課程:土木)修了後、三井海洋開発株式会社にて、中東・東南アジアにて海底石油関連のプロジェクト・マネジメントに従事。1988年にニッセイ基礎研究所入社。専門は環境経営、CSR経営、環境ビジネス、統合報告など。環境経営学会の副会長。著書は『カーボン・ディスクロージャー』『統合報告の新潮流』『CSR経営パーフェクトガイド』『統合思考とESG投資』など