サステナビリティ革命 (その2)
~「サステナビリティ革命」を認識できるか?~

サステナビリティ革命は人類の意思として文明史上初の大革命であり、2015年は「サステナビリティ革命元年」と位置付けられる。これは、このままでは人類社会は持続「不」可能である、という危機意識に基づくものである。これまでの常識は、これからの非常識となる。日本企業の経営者は、このことに気づいているのであろうか?

■ビジネス・パラダイムの大転換
サステナビリティ革命とは、ビジネス・パラダイムの大転換に他ならず、ビジネス世界観の大きな変化を意味する。18世紀後半の産業革命以降の化石燃料に依存した、これまでのパラダイムは、地球は無限という錯覚に基づく「限りない成長」であった。しかし、これからのパラダイムは、地球は有限という現実に基づく「持続可能な発展」である。

つまり、今日の人類社会がかかえる世界的な課題は、つまるところ、人口問題を抱えた人類自らがもたらした、気候変動、生物多様性の劣化、それと連動する経済的不平等であろう。これらの課題を解決することは、中長期的に産業構造を変え、ビジネスモデルの構造的変化をもたらす。企業によっては死活問題となろう。

■パラダイム大転換が明確になった2015年
2015年は文明史上の大きな屈曲点となった。この年には、地球環境と地球社会のサステナビリティにとってパラダイムを大きく変える出来事が集中したからである。つまり、世界と日本でそれぞれ3つの重大な出来事があった。

世界的には、国連総会における「SDGs」の採択、気候変動枠組条約 COP21での「パリ協定」の採択、さらにG20の声明に基づくFSB(金融安定理事会)の「TCFD(気候関連財務ディスクロージャー・タスクフォース)」の設立決定である。

日本では、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の「UNPRI(国連責任投資原則)」への署名、金融庁と東京証券取引所による「コーポレートガバナンス・コード」の運用開始、そして3つめはトヨタ自動車による「トヨタ環境チャレンジ2050」の公表である。

■パラダイム大転換の具体的な意味
ここで、上記の6つの重大な出来事をパラダイム大転換の観点から再確認する。

〔世界〕
まずSDGsについては、そもそもその正式なタイトルが「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」である。その目的は、グローバルレベルの解決すべき社会的課題を認識し、世界をサステナブルでレジリエントな道筋(path)にシフトすることである。そのうえで、この共同の旅路に乗り出すにあたり、「誰も取り残されない」ことを誓う。

次に注目すべきは、産業革命以降の石油文明(正確には化石燃料文明)が引き起こした気候変動に対するパリ協定である。特に世界全体の実施状況の確認が、2023年から5年ごとに行われる。従来の「低炭素社会」の形成から、パリ協定後は「脱化石燃料」すなわち「脱炭素社会」の構築に変わった。これはグローバルに、経済・社会システムの大転換を引き起こす。いや、実際に起き始めている。

さらにTCFDの提言(2017年6月)については、経済の血流とも言える資金を提供(投融資)する金融機関が、企業に対して気候変動にかかわる財務情報を求めたことがポイントである。特に「低炭素経済への移行」に焦点を当てていることが特徴であり、その財務開示の中核要素は気候関連のリスクと機会に関するガバナンス、戦略、リスクマネジメント、測定指標とターゲットである。

〔日本〕
160兆円を超す運用資産をもつ世界最大の公的年金であるGPIFがUNPRIに署名したことの意味は、次のとおりである。すなわち、「ユニバーサル・オーナー」(広範な資産をもつ資金規模の大きな投資家)かつ「超長期投資家」(100年後を視野に入れた年金財政の一翼を担う)として、従来とは大きく異なり、その資産運用においてESGの視点を反映させることである。そのスチュワードシップ責任を果たすべく、運用受託機関にもESG課題への取り組みを求める。

次にコーポレート・ガバナンス・コードでは、企業の長期思考と非財務要素の重要性が強調される。本コード補充原則2-3①では、取締役会はサステナビリティを巡る課題への対応は重要なリスク管理と認識し、こうした課題にプロアクティブな機会対応を推奨する。ここでコーポレート・ガバナンスとは、株主をはじめ多様なステークホルダーの立場を踏まえたうえで、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みである。

最後にトヨタ環境ビジョン2050については、バリューチェーン全体の実資的なCO2排出量ゼロや新車製造において地下資源の不採用(部品・材料のリユースの徹底)などが明示された。気候変動対策として自動車の電動化、あるいはAIによる自動運転やライドシェアが加速しており、ハイブリッドカーで世界をリードしたトヨタ自動車の「生き残り戦略」とも理解することができる。

◆ ◆ ◆
強みだった20世紀型ビジネスモデルは、もはや21世紀には通用しない。むしろ、リスクを抱え込む恐れさえある。それゆえ、新しいビジネスモデルが必要である。そのためには長期的な地球環境や地球社会の見通しが不可欠である。

そこで次回は、「2030年までに確実に起きること」と「2050年の世界」を概観したうえで、長期ビジョンや長期目標の必要性について述べる。

(つづく)

 


オルタナ総研所長・首席研究員 川村雅彦

前ニッセイ基礎研究所上席研究員・ESG研究室長。九州大学大学院工学研究科(修士課程:土木)修了後、三井海洋開発株式会社にて、中東・東南アジアにて海底石油関連のプロジェクト・マネジメントに従事。1988年にニッセイ基礎研究所入社。専門は環境経営、CSR経営、環境ビジネス、統合報告など。環境経営学会の副会長。著書は『カーボン・ディスクロージャー』『統合報告の新潮流』『CSR経営パーフェクトガイド』『統合思考とESG投資』など