人類が出せるCO2は1兆トン ⑭
SDGsへのコミットメントとは何か (その5)
~バリューチェーン・マッピングで自らのインパクトを知る~

前回から「SDGs達成への貢献」に向けた日本企業のグッド・プラクティスを紹介しており、本稿では「SDGsのバリューチェーン・マッピング」を取り上げる。

【社会的課題と自社バリューチェーンの関係を検証する】

SDGsへの取組の中で最も大事なことは、17目標(正確には169ターゲット)の中から自社のバリューチェーンにおいて自社が取り組むべき優先課題を決定することである。そのためには、バリューチェーンにおいて自社の業務プロセスとプロダクトが環境や社会に及ぼす影響(インパクト)を自ら分析し特定する必要がある。これをバリューチェーン・マッピングと言う。

しかし、両者の関係を深く分析もせずに、安易に自社の取組と該当すると思われるカラフルな目標アイコンを上辺だけで紐付ける日本企業も少なくない。これは「SDGsウオッシュ」と呼ばれ、環境における「グリーンウォッシュ」をもじった言葉である。

バリューチェーン・マッピングとは、2030年までにSDGsのめざす諸社会的課題の解決に向けて、企業が中核事業あるいは業務プロセスで貢献できる領域を特定することに他ならない。これが「正しい紐付け」であり、ISO26000のCSRデュー・デリジェンスやGRIのマテリアリティに近い考え方である。要点は以下のとおり。

・ 自社のバリューチェーン全体のマッピングを幅広い視野で実施し、169のターゲットに照らして直接・間接の正と負のインパクトを及ぼす領域を特定する。
・ この関連性分析を基に、自社の製品・サービスや業務プロセスの及ぼす、現在と将来に考えられるインパクトの大きさについて自己評価を行う。

なお、企業の事業活動や製品・サービスの及ぼすインパクトにはプラスとマイナスの両面があり、「正の影響の強化」は市場機会的側面、「負の影響の最小化」はリスクマネジメント的側面の強い位置づけと考えられる(図表1)。

図表1:SDGsの 「バリューチェーン・マッピング」 の例示(製造業)

繰り返すが、ここで大事なことは、169のターゲットレベル(定量的・定性的)で、バリューチェーンにおける自社事業の環境・社会への正・負のインパクトを将来にわたって予測・分析することである。なぜならば、現在の取組状況に基づくだけのSDGsマッピングでは、特定すべき目標・ターゲットの適否を時間軸をもって正しく判断できないからである。

ただし、これは全ての企業がSDGsの17目標・169ターゲットの全てに愚直に取り組むことを意味しない。プロダクトとプロセス、そしてバリューチェーンは企業ごとに異なるため、必然的に環境や社会へのインパクトと取組の優先順位は異なる。それゆえ、自社がSDGsの達成に効果的に貢献できることは何かを考えることが肝要である。

【SDGsバリューチェーン・マッピングの先進事例】

ここで、自社のバリューチェーンにおけるSDGsマッピングを分かりやすく開示している事例2件を紹介する。いずれにも共通する特徴は、自社グループのCSRマテリアリティ(重要課題)の特定ないし見直しと連動させていることである。

〔日立建機〕
日立建機グループでは、自社事業がバリューチェーン全体で環境や社会にどのような±の影響をもたらすかを、SDGsの17目標・169ターゲットとの関連で把握することで、何が重要課題かを明確にしている(図表2)。CSR施策と経営戦略を一体化させるべく、中期経営計画と連動するCSR中長期目標の策定プロセスは、SDGコンパスの5段階ステップそのものである。

図表2:日立建機グループのバリューチェーンにおけるSDGsマッピング

(注)「CSV3テーマと関わりの深いSDGs目標」も別途説明している。 (資料)「日立建機CSR & Financial Report2017」(29~30頁「バリューチェーンでの重要課題」)

〔伊藤園〕

伊藤園では、「茶畑から茶殻まで」の調達、製造・物流、商品企画・開発、営業・販売の一連の流れにおいて、企業価値と環境面、社会面での価値創造をめざし、これを支える基盤であるガバナンスも強化している。そのなかでESGの視点からバリューチェーン全体でSDGsを関連付けて整理している(図表3)。2017年8月には「伊藤園グループSDGs推進基本方針」を策定している。

図表3: 伊藤園グループのバリューチェーンにおけるSDGsマッピング

(注)ESG課題への対応では、SDGsの目標を参照しつつ、自社の活動目標を設定した。
(資料)「伊藤園統合レポート2017」(25~26頁「バリューチェーンにおけるESG」)

次回は、ターゲットレベルでの関連付けのグッド・プラクティスを紹介する。

(つづく)

 


オルタナ総研所長・首席研究員 川村雅彦

川村雅彦(オルタナ総研所・首席研究員)

前ニッセイ基礎研究所上席研究員・ESG研究室長。九州大学大学院工学研究科(修士課程:土木)修了後、三井海洋開発株式会社にて、中東・東南アジアにて海底石油関連のプロジェクト・マネジメントに従事。1988年にニッセイ基礎研究所入社。専門は環境経営、CSR経営、環境ビジネス、統合報告など。環境経営学会の副会長。著書は『カーボン・ディスクロージャー』『統合報告の新潮流』『CSR経営パーフェクトガイド』など。