[インタビュー]グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン

有馬 利男代表理事

オルタナ2016年4月号り転載

2015年に期限を迎える「MDGs(国連ミレニアム開発目標)」に代わる「SDGs(持続可能な開発目標)」が2015年9月、国連本部で全会一致で採択された。なぜ日本企業にとってSDGsが重要なのか、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ/東京・港)の有馬利男代表理事に聞いた。

聞き手・オルタナ編集長=森 摂、同副編集長=吉田 広子、写真・福地 波宇郎

─有馬さんが初めて「国連グローバル・コンパクト(UNGC)」に出合ったとき、どのように受け止めましたか。

グローバル・コンパクトは、コフィー・アナン国連事務総長(当時)が1999年の世界経済フォーラムで提唱したイニシアティブです。UNGCは企業に対し、人権、労働、環境、腐敗防止に関する10原則を順守し、実践するように求めています。2001年に署名したキッコーマンが日本企業の第1号です。

2002年当時、私は富士ゼロックスで社長を務めていましたが、グローバル・コンパクトの理念は素晴らしく、すぐに署名しました。ところが、加盟すると何が起こるのか。具体的な活動は見えず、勉強会にとどまっている。

そこで、2008年、グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)も行動を起こす自立的な組織になろうと、経営トップ主導型のネットワークに移行しました。当時60社だった加盟企業は、209社まで増えました。

経営を根幹から変えた

─GCNJのミッションは。

1990年代、グローバリゼーションが進み、貧富の差や児童労働、環境破壊など多くの問題が起きました。そこに、NGOやメディアがノーを突き付けた。企業も社会に対して注意を払わなければならないと意識し始めたのです。しかし、その段階ではまだ社会に対する責任は、個別のイシューに対してでした。それをグローバル・コンパクトは、経営の課題としてパラダ
イムシフトさせたのです。

─CSRとの統合ですね。GCNJの活動には3つの柱があります。1つは人権、労働、環境、腐敗防止に関する10原則を経営の中に埋め込んでいくことですが、そのために分科会活動やセミナーなどを開催しています。分科会は14あり、平均25~30社が集まっています。

2つ目の柱は、外部との連携です。例えば、他の社会組織との連携活動を盛んにやっています。また加盟各社の社長に呼びかけて、執行役員クラスの人材に集まってもらい、1年間CSRについて学び、考えてもらう「明日の経営を考える会」があります。2015年で8年目ですが、すでに100人の卒業生がいます。日中韓のラウンドテーブルも2015年で7年目を終えたところです。

3つ目の柱は、国連の活動を支持するアドボカシーですが、SDGs の普及は最大のテーマです。

執行役員前後の意識改革

─経営者の意識は変わってきていますか。

やはり経営者は日々競争のなかにいて、株主と対話をし、どこまでできるのか難しいところもあります。ですが、経済同友会の意識調査では、7割がCSRは中核の戦略であると答えています。

トップになってしまうと、変わることが難しい。ですから、これからというタイミングの執行役員前後の人に持続可能性(サステナビリティ)について考えてもらうことが重要なのです。「明日の経営を考える会」の狙いはそこにあります。卒業生のなかで、トップになった人も数人います。

─有馬さんがサステナビリティに触れたとき、どのように感じましたか。

私は1978年、はじめて「ステークホルダー」という言葉に触れました。富士ゼロックスの企画課長の時で、当時の小林陽太郎社長から「企業はステークホルダーのために存在する」と教わったのです。

小林は、TQ C(全社的品質管理)に取り組み、デミング賞実施賞を受賞しました。品質の意味とは、製品の品質にとどまらず、仕事や人、組織全体の品質にかかわることだと議論していました。

品質活動の源流として企業の持つ品質があり、ステークホルダーの期待に応えるレベルが企業の品質であると言っていたのです。これにはすごく納得しました。

米ゼロックス創業時の経営者ジョー・ウィルソンは、「ゼロックスの仕事は、コピー機の販売ではない。コミュニケーションを手伝うことであり、世界の人々の相互理解をつくりあげることだ」とビジョンを掲げていました。私はこのビジョンに共鳴して入社したのです。

─社長に就任してからは、どのように経営とCSRを統合していったのですか。

当時、業績が悪く、第一のミッションは業績の立て直しでした。それをやると決めて、かなり厳しい変革をしました。いつも考えていたのは、なぜこんなに厳しいことをするのか。それは、ばりばりの競争力を付けることが目的ではなく、それを通じて、企業が経済的な力と社会的な責任と人間に対する責任に統合的に取り組むことなのです。

富士ゼロックスは1978年に企業品質という言葉を使いましたが、もう一度、企業品質の概念を打ち出しました。幸い、3%台の営業利益が退任した年は10%近くまで上がりました。

社会に一歩踏み出す

─なぜ企業はSDGsに取り組むべきなのでしょうか。

企業が自分の事業と直結する社会的な課題に取り組むことはその第一歩ですが、それだけでは十分ではありません。いったん社会に踏み出して、そこから自分たちのビジネスに持ち帰ることも必要です。

つまり、「アウトサイドイン」の考え方です。自分たちの仕事にあてはまることだけに取り組んでいては、世界全体で持続可能な開発に到達するのは難しい。

─社会課題を知ることで、ビジネスチャンスにつながる可能性もあります。

企業ができることはもっとたくさんある。企業が持っている技術、資金、設備、リソースはたくさんあるのです。企業人が得意なのは、プロセスを作り上げる力。問題を直す対処療法ではなく、もとをつかんで絶っていく。それは日本企業の強みでもあります。

こうした民間の強みを世界が抱える課題に対して、発揮していかなければなりません。


有馬 利男(ありま・としお)
1967年、国際基督教大学教養学部卒業。1967年、富士ゼロックス入社。1996年、同社常務取締役、XeroxInternational Partners社長兼CEOを経て、2002年、富士ゼロックス代表取締役社長に就任。2007年、取締役相談役、2008年より現職。