人類が出せるCO2はあと1兆トン④
モントリオール・カーボン・プレッジ(機関投資家によるポートフォリオの低炭素化) 


ポートフォリオのCO2を測定しはじめた機関投資家

「価格が同じであれば、環境に配慮した製品を購入しますか?」これは、環境問題に関して消費者がよく聞かれる質問である。それでは、「リターンが同じであれば、CO2排出量の少ない企業に投資しますか?」と投資家が聞かれたら、どう答えるだろうか。

実は、この質問に対して「Yes」と答える機関投資家が世界的に増えている。UNPRI(国連責任投資原則)が、世界の機関投資家(アセット・オーナーと運用機関)に対して、その運用する投資ポートフォリオ上のCO2排出量(カーボン・フットプリント)を測定し開示することを呼びかけているからである。

これは、2014年9月のUNPRI年次総会で発表された「モントリオール・カーボン・プレッジ(Montreal Carbon Pledge)」と呼ばれる自主的なイニシアチブである。詳細は、こちらを参照して欲しい。

当初、このプレッジに署名した機関投資家は十数機関に過ぎなかったが、2015年12月にパリで開催された気候変動枠組条約のCOP21時点で120機関(資産額10兆米ドル)を超し、この4月には130機関以上となった(UNPRI署名は条件ではない)。

署名機関には長期視点をもつ欧米の公的年金基金や公務員退職年金基金をはじめ、企業年金基金や資産運用機関も少なくない。日本の機関投資家では、セコム企業年金基金、運用会社のアセットマネジメントOne、J-REIT運用会社の三菱商事・ユービーエス・リアルティが署名している。

投資先企業のCO2排出量を基に計算

カーボン・プレッジを直訳すれば「炭素に関する誓約・公約」となるが、要は機関投資家によるCO2削減に向けた新たな取組である

署名した機関投資家は、まず自らの運用する一部あるいは全ての投資ポートフォリオのカーボン・フットプリントを年単位で測定することになる(見える化)。具体的にはどうするのか。

測定すべきカーボン・フットプリントについて、プレッジは次のように説明している。

  •  CO2測定の対象は、ポートフォリオにある全ての株式ファンド(株式を含む)
  • 株式ファンドの構成銘柄が排出するCO2排出量に構成比率を乗じた値の合計
  • 将来的には債券ファンドやプライベート・エクイティ(※)に拡大する可能性
    ※広義には株式の未公開会社(または事業)に関する投資すべてを含む概念

カーボン・フットプリント開示の好事例として、みずほフィナンシャルグループ系のアセットマネジメントOneがウェブで公表している説明をあげることができる。

「投資先企業が2015年12月に回答した温室効果ガス排出量について、各社の株式数をもとに一株あたりの排出量を計算し、当社の日本株ESGファンドの保有株数(2016年10月末)を乗じて排出量の集計値を算出しました。その集計値は22万5218トンとなります」

メインストリーム化する気候リスク

機関投資家が自らのポートフォリオのカーボン・フットプリントを測定し開示することで、投資家としての気候変動に関連するリスクと商機について理解を深めることができる。それを定量化することは、投資マネジメントにつながると認識されだしたのである。

「Global Climate 500 Asset Owners Index」を公表する、ロンドン拠点のNPOである The Asset Owners Disclosure Project(AODP)は、「アセット・オーナーがCO2を測定するのは、単なる倫理やモラルではなく、喫緊の財務リスクとしての判断である。」と明言する。このことから投資先企業のCO2排出は投資リスクと位置付けられていることがわかる。

モントリオール・カーボン・プレッジには、The Portfolio Decarbonization Coalition (PDC:ポートフォリオ脱炭素化連合)というマルチステークホルダー・イニシアチブがある。

その目的は、ポートフォリオの脱炭素化をめざす機関投資家を結集して、CO2排出量削減を促進することである。投資に伴うカーボン・フットプリントの測定と開示から更に進んで削減をめざす。

つまり、投資家の低炭素経済に向けた情報から行動への進展である。現在、PDCに参加する機関投資家は27機関で、その資産規模3.2兆米ドルのうち既に脱炭素化にコミットされたのは6000億米ドルである。

「ポートフォリオの低炭素化」とは、リターンが同水準の企業であれば、機関投資家がリターンを犠牲にしない範囲で、よりCO2排出量の少ない企業へ資金を移すことである。これは、CO2排出量の大小で投資先を変えることが、企業の気候変動対策のインセンティブ(圧力)となるという考え方に基づく。

これらの背景には、地球温暖化や気候変動の影響の深刻化や、その防止に向けた政策や規制の強化、顧客・消費者の価値観の変化などで、投資先企業の気候リスク(あるいは逆に商機)が増大したことがある。

その結果、機関投資家自身の資産に悪影響が及ぶ可能性が認識されたことが大きい要因である。実際、ダイベストメント(投資撤収)が広がっている。