2016年10月19日に発行した「GRIスタンダード」の日本語版が完成した。主に翻訳を進めてきた特定非営利活動法人サステナビリティ日本フォーラムは、4月19日都内で「GRIスタンダード翻訳お披露目シンポジウム2017」を開催。CSR担当者など700人が参加し、双方向の活発な討議が行われた。翻訳版は日本が初めてだという。「スタンダード」はG4から大きな内容の変更はないが、開示項目をモジュール化し、使い勝手が良くなっている。(オルタナ編集部=松島 香織、小松 遥香)

CSRのメリットを議論している場合でない

基調講演に、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の小森博司市場運用部次長兼スチュワードシップ推進課長が登壇した。GPIFは「ユニバーサル・オーナー」であり100年後を視野に入れた「超長期投資家」であると説明し、環境や社会問題を最小化し、市場全体がサステナブルに成長することが不可欠であるとした。

サステナブルな市場には「投資におけるESGの考慮」が非常に重要であり、企業には「ROEとESGの取り組みを期待したい」と話した。それにより、日本のマーケットの魅力が上がり、海外から資金が流れてくるようになる。

だが、日本企業はまだまだディスクロージャーが足りず、海外の投資家は、情報開示がされていないと「隠している」か「やっていない」と理解するという。企業の取り組みのエビデンスが「情報開示」であると強調した。

GPIFは企業に直接コンタクトできないため、アセットオーナーがESGを理解できているかがカギだという。だが、「日系のアセットマネージャーの知見は海外に劣る」と厳しい言葉がでた。

小森次長は「いまはCSRのメリットを議論している場合でない。すぐにCSRを企業価値に結び付けてほしい。そしてインベストメントチェーンの中でウィンウィンの関係にしたい」と力を込めた。

早期に「GRIスタンダード」の導入を

GRIスタンダードのバスティン・バック ディレクターは、「GRIスタンダードはG5ではなく、G4の構成やフォーマットを修正、改良したものだ」と前置きし、GRIスタンダードを活用するメリットとして以下の3点を挙げた。

1.柔軟性と最新性
ESGやサステナビリティを取り巻く状況は、めまぐるしく変化している。その中で、更新や改良をしやすく、将来にわたって活用できるものになっている。

2.各国の規制などへの適応性
サステナビリティに関して、政府による規制が増えてきている。多国籍企業であっても、一元化したスタンダードで報告書を出すことが可能になる。

3.非財務情報の共通枠組みとなること
あらゆるサステナビリティ報告書に求められる共通の枠組みとなる。

構成については以下のように説明した。

基本的な情報が記載されているGRI101、一般開示事項について記載したGRI102、マネジメント手法について記載したGRI103の3つの共通スタンダードと、33の項目別スタンダードに分かれる。さらに、この33の項目別スタンダードは経済、環境、社会の3つのカテゴリーに分類され、経済はGRI200、環境はGRI300、社会はGRI400となる。企業は、それぞれのマテリアリティに基づいて、項目別スタンダードから必要なものを選び、活用する。

また、報告書に求められる事項が明確化され、要求事項と推奨事項、手引きの3つに分かれている。

活用方法には2つの方法があるという。1つは、スタンダードに準拠して報告書を作成すること。2つ目は、GRIスタンダードの中から必要なものを選んで報告書を作成することだ。ただし、一部のみ使用する場合には、GRIスタンダードのどこを参照したかを記載する必要がある。また、どちらの場合も、GRIに使用した旨を報告する必要があるという。

GRIスタンダードの発効日は2018年7月1日だ。バック氏は、「GRIとしては発行日を待たずに、各企業にはGRIスタンダードを導入してもらいたい」と語った。

GRIを前向きにとらえて、事業に活かす

登壇したロイドレジスタージャパンの冨田秀実取締役事業開発部門長は、長年GRIに関わってきたメンバーであり、「早い時期から翻訳できたこと、そして無事に日本語訳ができたことがとても嬉しい」と話した。

スタンダードではG4で使用していた用語が変更になった。例えば、「インジケーター(指標)」は「ディスクロージャー(開示)」に、「アスペクト(側面)」は「トピック(項目)」に統一したという。また、「インパクト」は自社に対するインパクトでなく社会へのインパクトを示したり、「影響」という意味だけでないと説明した。

共通スタンダードの「GRI 103」はマネジメント手法の開示を求めており、今後はEU指令で特に重要になってくるという。「従業員」と「労働者」、「サプライチェーン」と「バリュー・チェーン」の使い分けがされており、どちらを開示するのか明確に区別されている。

冨田取締役は「翻訳して改めてじっくり見たら、さらに理解が深まった。何故それが重要なのか、背景情報が詳しく書かれている。サステナビリティへの理解が深まるので、ぜひ活用してほしい」とGRIを前向きにとらえて、事業に活かすよう促した。

法規制より「世の中でどう見られているか」が重要

パネルディスカッションに登壇したサステナビリティ日本フォーラムの後藤敏彦代表理事は、日本では、財務情報と非財務情報の開示については、それぞれ別の省庁が担当しているが、ヨーロッパなどでは、非財務情報の開示は「財務情報の追加」になると話した。

GRIは、詳細な規定や数値基準が無く、比較的自由度の高い「原則主義」をとっており、「法律化はありえない」という。日本は、ソフトローは義務ではないと考えているがヨーロッパではソフトローが多く、ハードローかソフトローかにこだわる必要はないと話した。「世の中でどう見られているか考えるべき」と結んだ。