日本では、CSRという英語はこれまで「企業の社会的責任」と訳されてきました。しかし、CSRを単なる社会的責任ととらえると、納税や雇用を果たしているだけで十分という錯覚に陥りかねない訳語であり、「自社のCSRの取り組みを積極的に社内外に広報することはおこがましい」という考え方につながりかねません。

そこで、改めて「責任」(responsibility)という言葉を考えてみます。この単語はresponse(反応する、対応する)と、ability(力、能力)からなります。つまり、その原義は「対応力」であることが分かります。

CSRを単に「企業の社会的責任」と訳すのは適切ではありません。ここでは「CSR=企業の社会対応力」という側面を強調したいと考えます。そして企業の「CSRの取り組み」を次のように定義します。

CSRの取り組み

  1. 「社会的課題の解決」と「(自社の売上高や利益など)経営的成果」の両方を目的としていること。
  2. 企業内で完結する取り組みではなく、サプライチェーン全体はもとより、専門家、大学やNGO/NPOなどさまざまな外部他者(マルチステークホルダー)との取り組みであること。
  3. これらの取り組みを通じて、企業が自社のファンや「未来の顧客」を創造し、企業の価値やブランド価値を高めていけるものであること。

特に①は、さまざまな社会のニーズやウォンツに対応し、インフラや技術など自社の経営資源やインフラ、本業の強みを生かして、社会的課題の解決に取り組むことを指します。

これはヒト・モノ・カネという経営資源のほか、社会的課題を解決するための新しいサービスや製品を投入することも含まれます。

社会的課題とは、人権擁護、環境保全、温暖化防止、貧困撲滅、格差是正、障がい者雇用、ダイバーシティの推進など、本書でも取り上げているありとあらゆる課題を指します。なぜ企業が社会的課題の解決に取り組まなければならないのかは本書の中で解説してありますが、特に東日本大震災(2011年)以降、企業に対して期待が高まっていることは間違いありません。

②については、企業の課題であれば企業内の取り組みで済みますが、「社会的課題」は社会に存在するため、その問題で優れた知見を持つ専門家がいた方が良いことから、できるだけ外部他者との協働(パートナーシップやオープン・イノベーション)が望ましいと言えます。

③にあるように、企業側から見たCSRの取り組みの最大の目的は「企業価値を高めること」です。逆に社会からの視点でみると、「社会的課題の解決のために企業のサポートを得ること」です。CSRの取り組みとは、企業と社会による共同作業であり、これを進めることこそが、CSRになるのです。

CSRと経営が統合する時代へ

ピーター・ドラッカーは、代表的著書『マネジメント』(1973)において、「組織の社会的責任」について次のように論じています。

「社会的責任の問題は、企業、病院、大学にとって、二つの領域において生ずる。第一に、自らの活動が社会に対して与える影響から生ずる。第二に、自らの活動とは関わりなく社会自体の問題として生ずる。いずれも、組織が必然的に社会や地域のなかの存在であるがゆえに、マネジメントにとって重大な関心事たらざるをえない」

つまり、企業を含めた全ての組織の活動が社会に対して引き起こした負の影響であってもそうでなくても、企業が社会の中に存在する以上は関心を持たなくてはならないと主張しているのです。

日本でも、CSRを経営に組み込む企業が増えてきました。CSRは、「社会の新たな動きを知らないことによって発生するリスク」を低減し、「未来の顧客」を醸成し、企業価値(株価の時価総額だけでなく、ブランドのような非財務価値を含む)を高めるための最大の経営ツールなのです。