筆者とスザンヌ・ストーマー氏

Interviewee:スザンヌ・ストーマー=ノボ・ノルディスクCSO
Interviewer:下田屋毅=在ロンドンCSR/サステナビリティ・コンサルタント

ノボ・ノルディスク(本社:デンマーク・コペンハーゲン)は、糖尿病治療を90年以上にわたって研究開発する同分野の世界的リーダーだ。製品は5大陸165か国以上で販売され、従業員は世界77カ国に現在4万2000人。血友病と成長ホルモン不全の治療でも著しい貢献をしている。またトリプル・ボトム・ライン(TBL)を経営戦略上、不可欠なものとして実施する企業である。

この世界でCSR/サステナビリティをけん引する先進企業、糖尿病分野の世界的リーダーでもあるノボ・ノルディスクのCSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)を務めるスザンヌ・ストーマー氏に同社のサステナビリティ活動について伺った。

―――ノボ・ノルディスクは、トリプルボトムラインを基本に企業活動を行っているのでしょうか。

ストーマー氏:トリプルボトムライン(TBL)は、1997年にジョン・エルキントン氏がつくり出した定義です。その当時のノボ・ノルディスクにも、このトリプルボトムラインの定義に通じるものがありました。これは「経済的なボトムライン」だけを達成するのではなく、長期的にどのように資源を使用するのかについても配慮する「環境的なボトムライン」や、どのように人を尊重するかという「社会的なボトムライン」を考慮する必要があり、これが企業のマネジメントに適合する部分が多くあったからです。

そこで当時のノボ・ノルディスクの経営陣はトリプルボトムラインを実施していくことを決めました。その後、CSRの定義が現れ、多くの企業がCSRを実施し始めました。そしてそれらの企業は違う言い方で「なぜCSRを行う必要があるのか」を説明し始めました。

ノボ・ノルディスクにとって「なぜTBLを実施するのか」を説明することは、とても一貫性があります。TBLは、私たちが事業を継続するために実施するビジネスの方法だからです。

今日の「サステナビリティ」は、私たちの企業を長い期間存続させるもので、TBLを通じて実施しているものです。そして、次の世代のために事業を行う存在でありたいと考えています。私たちは、世界中の糖尿病や血友病、成長ホルモン不全の方々のために企業活動を行っています。これら患者さんの子どもや、その子孫なども私達の薬を必要としています。ですから、私たちは将来の子どもたちのためにも、将来に渡って存続していなければなりません。

―――TBLを基本として企業のサステナビリティを推進する際に、最も重要なものは何でしょうか。

ストーマー氏:サステナビリティを推進する上で一番重要なのは「人」です。私たちの最初の責任としては、「患者さん」を一番に考え、患者さんの健康や安全を確保し、製品の品質と安全を確保することの多くの努力を行っています。

ニつ目は、できる限り「患者さん」を薬物治療だけでなく、彼らが必要とする社会・心理的分野のサポートも行うということです。そのため私たちは、首尾一貫したヘルスケアを行うために医者や看護師とともに協働しているのです。

三つ目は、会社で働く従業員です。「人」というのは従業員も含みます。私たちは度々、「ノボ・ノルディスクは人である」と言っています。もし「人」がいなければ私たちは何も成し遂げることができません。従業員の安全や衛生を確保することはとても重要だと考えており、従業員とコミュニケーションを図り、またエンゲージメントを行い、労働環境を改善し、健康的な生活や、バランスのとれた生活ができるようにリードしています。そしてこれらを実施するためにさまざまなイニシアティブを進めています。

またより広い視野で考えると、私たちが事業を行っている敷地の近隣の地域コミュニティの人々に対して、ノボ・ノルディスクが、より魅力的な生活の場であり職場となるように多くの投資を行っています。私たちの関心は、近隣の地域コミュニティの方々に対しても仕事の機会を提供すること、そして良い隣人になることです。

ここまで人権に関わる部分としてお話をしていましたが、私たちは全ての人を尊重しているということです。これは「ノボ・ノルディスク・ウェイ」の一部に掲げられています。「人を尊重とともに取り扱う」という実際の意味は、私たちのバリューチェーンやサプライヤー、ビジネスのパートナーを通じて、私たちが行っている企業活動の全てにおいて、人の尊厳や誠実さを尊重するということです。これらが社会的責任に関する部分になります。

環境に関する責任についてですが、私たちは製品を製造する時に、水やエネルギーを必要とします。そして私たちは資源を使い尽くしてはいけません。だから私たちは再生可能エネルギーや水の再循環について、また化学品の使用を限りなく少なくするために投資しているのです。そしてこれらの活動を行うことで、私たちは環境フットプリントを最小限に抑えることができています。

また経済的な責任も忘れてはいけません。これは、富の再分配を行うために、どのように私たちがお金を得るのか、どのようにお金を使用するのかということに関連します。私たちは従業員に給与を支払い、サプライヤーに対価を支払い、そして腐敗と贈賄を助長しないことです。これが全体像になります。

サーキュラーエコノミーとSDGs

―――環境に関する取り組みは、EUが進めているサーキュラーエコノミーに関連していると思います。ノボ・ノルディスクでは、サーキュラーエコノミーにはどのように貢献していますか。

ストーマー氏:私は、サーキュラーエコノミーをハウスキーピング(家事)に例えています。あなたが自分の家のことを考える時に、食品廃棄や大量のごみの廃棄を避けようとしますよね。なぜなら自分のお財布からお金が出ていくことにつながっているからです。サーキュラーエコノミーもこれと同様に考える必要があり、そして新しいコンセプトです。

私たちは、デンマークの工場で、他の業界との協働でサーキュラーエコノミーを実践しています。それらの工場では、何かの物質が必要であり、その物質が私たちにとっては廃棄物であるかもしれないのです。そして彼らにとっては廃棄物である物質を私たちが使用したりしています。現在、サーキュラーエコノミーに関しては、工場や事務所において、さらに何ができるかを考えています。

―――現在多くの企業が持続可能な開発目標(SDGs)に貢献しようと行動を始めています。ノボ・ノルディスクとしてはSDGsにはどのように貢献することを考えられていますか。

ストーマー氏:私たちは、SDGsについて大変喜ばしく思っています。SDGsは、歴史上はじめて、糖尿病が慢性的な病気であり、特別な治療が必要なものだということを特別関連事項としているからです。

ノボ・ノルディスクは、SDGsに関連する多くのイニシアティブに加わって、率先して、「あなたが健康について話すときに糖尿病についても考えてほしい」と伝えるアドボカシーも実施しています。また患者で組織されるNCD(非感染症疾患)アライアンスなどとも協働を行っています。私たちには目標3の「あらゆる年齢のすべての人の健康的な生活を確保し、福祉を推進する」があり、この下の特定のターゲットで、糖尿病予防を行った結果として、幼児の予防可能な死亡を根絶することが可能となります。これが私たちの1番の優先事項なります。

二つ目の優先事項は、サーキュラーエコノミーに関する目標12の「持続可能な消費と生産」になります。この目標の下には、特定のターゲットが設定されており、これらは例えばサーキュラーエコノミーの廃棄物の削減に関して多くのことが含まれています。この目標について私たちの工場や事業所で実施しており、さらに私たちは生態系の一部であることを従業員が理解することを励行しています。またサプライヤーとの協働においては、サプライヤーの事業所におけるエネルギー消費の削減、二酸化炭素の排出削減を行っています。

三つ目は、企業はたいてい目標を絞り込み、「私たちはこの目標に貢献できるので、この目標に対する活動を実施する」としていると思います。しかし、ここで私たちはビジネスを通じて17の目標の全てのレンズを通して見ています。そしてその中で、私たちに何ができるのかを考えていて、そして目標を特定しているということなのです。私たちは、いくつかのSDGs関連の目標をその活動を通じて扱っており、さまざまなイニシアティブを通じてパートナーと実施しています。このように私たち17の全ての目標、ターゲットを見て活動を行うようにしています。

先ほどお話した、サプライヤーと協働しているイニシアティブは、二酸化炭素の排出の削減があります。私たちは生産工場の二酸化炭素の排出の削減について何年にも渡って実施してきたのでそのやり方について良く知っています。「地球温暖化ガスプロトコル」に則って、スコープ1、スコープ2のみならず、スコープ3についても実施しており、このスコープ3は、私たちのサプライチェーンから排出されるものになります。

また、私たちは環境P&Lを実施して学んでいます。この環境P&Lによると、ノボ・ノルディスク全体の二酸化炭素の排出量のうち、ノボ・ノルディスクの生産工場から排出される二酸化炭素はわずか7%であることが示されていました。二酸化炭素の排出について、工場以外の発生源の多くはサプライチェーンから排出されているものでした。

何を実施しているかというと、経験したことや学んだことを利用して、私たちが選んだ排出量の多いサプライヤーのグループとともに、彼らの二酸化炭素の排出量を削減するプログラムを共同で実施しています。なぜなら彼らのカーボンフットプリントは、私たちのものでもあるからです。

環境P&Lですが、これは中身がとても興味深く、全ての要素がこの中に入っていることを教えてくれます。私たちは、ビジネスを通じた全ての二酸化炭素の排出を助長している要因の世話をしなければならないということがわかるのです。環境P&Lでは、私たちは二酸化炭素排出量の削減を一番の優先事項として掲げていますが、それ以外は、水についても優先順位を高くおいています。世界の生産工場において、水の枯渇している地域での水の使用がないかを確認していますが、現在ブラジルがこのケースに当てはまっています。ブラジルの生産工場において、その地域の水に関連して何ができるのかに特に焦点を当て実施を検討しています。またデンマークでも水について考慮しています。デンマークでは今のところ水不足などはありませんが、デンマークにおいても将来的には水に関して考慮しなければならないと思っています。

また化学製品についても考えなければなりません。私たちはEUのREACH規則などに記載され使用ができない(できなくなる)化学製品のリストを考慮し進める必用があります。そしてEU以外の違う地域においても私たちは化学製品について同様の取り扱いを行っています。

―――SDGsの目標17はパートナーシップです。ノボ・ノルディスクは既にいろいろなパートナーシップやイニシアティブに入って活動をされています。その中でも重要なものは何でしょうか。

ストーマー氏:私たちにとって「Cities Changing Diabetes(都市の糖尿病を変える)」が最も重要なパートナーシップになります。この「Cities Changing Diabetes」はパートナーシップとして始まりました。これは「ステノ糖尿病センター(以前ノボ・ノルディスクの傘下)」と「ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)」との協働になります。UCLのデービッド・ネイピア教授とそのチームは、なぜ都市で糖尿病が引き起こされているのかについてのとても重要な研究を行ってきました。都市に住む人々は糖尿病になる可能性がより高いということなのです。

例えば、もし田舎に住んでいた人が、都市で暮らすようになると飲食や移動手段など、生活のスタイルが変わるのは理解できると思います。このパートナーシップは、地域の行政、地域の専門家、そして建築家や食品会社などを含む多くのその地域のパートナーと協働し、どのように私たちが健康を損なわずに促進することができるような都会環境をつくることができるのかについて議論をしています。

また他のパートナーシップの事例としては、国際統合報告評議会(IIRC)があります。これは組織、企業、証券取引所などとのコラボレーションの方法であり、変化が必要なプロセスを進めるための手助けとなります。

これらのコラボレーションやパートナーシップは、ノボ・ノルディスクの文化に深く根ざしています。それは、なぜならば私たちは全てのことを単独ではできないからなのです。全てにおいて専門家ではありませんので、専門的知識をもつ専門家と関係を持ち、またそれ以外のパートナーとも話をしています。パートナーシップを行うと簡単に言うことができますが、実際に行うのは簡単なことではありません。

パートナーシップは、結婚と一緒のようだと思っています。交渉し、一連の基本的なルールを設定し、そして何をこのパートナーシップで達成するのかを決めなければなりません。パートナーシップで成功することは、それぞれが単独で実施するよりも、より大きな成果を出すことができるものだと思います。また私たちはパートナーシップを行う際には、レピュテーションリスクや、失敗するリスクなど何らかのリスクにさらされています。

パートナーシップは、自分たちのやり方だけでなく、そのパートナーのやり方に沿う必要があり、そこで進め方に折り合いがつかない場合などは、パートナーシップを時にはあきらめなければならないこともあります。パートナーシップは、大きな課題を克服することができるとても良い方法ですが、より時間がかかります。

パートナーシップは、SDGsにはとても重要なことで、企業にインセンティブやインスピレーションを与える傾向があり、企業はより良いインフラストラクチャーを整備することができます。そしてそれらの活動が企業にとって良いビジネスケースとなるというものです。

最後にパートナーシップで重要なこととして、私たちは政府、企業、市民社会、NGOや国連組織との連携があります。これら三角関係に位置する組織のそれぞれが、良い活動ができるように調整することが必要となります。

つづく

スザンヌ・ストーマー
ノボ・ノルディスクのCSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)
ノボ・ノルディスクのサステナビリティ事業の取り組みをリードし、企業のサステナビリティに基づくプログラムの管理、統合報告書、ステークホルダーエンゲージメント、トリプルボトムライン(TBL)ビジネス原則の価値に関するコミュニケーションを担当している。同社の統合報告書は世界的に評価が高く、同氏は国際統合報告評議会(IIRC)においてリーダーシップを発揮している。コペンハーゲン・ビジネス・スクール助教授(担当コーポレート・サステナビリティ)


下田屋 毅・サステイナビジョン代表取締役
在ロンドンCSRコンサルタント 下田屋毅在ロンドンCSRコンサルタント 下田屋毅在ロンドン CSR コンサルタント。大手重工業会社に勤務、工場管理部で人事・総務・教育・安全衛生などに携わる。新規環境ビジネス事業の立上げを経験後、渡英。英国イーストアングリア大学環境科学修士、ランカスター大学MBA。欧州と日本の CSR の懸け橋となるべくCSR コンサルティング会社「Sustainavision Ltd.」をロンドンに設立、代表取締役。ビジネス・ブレークスルー大学講師。