川村雅彦(オルタナ総研所・首席研究員)

SDGsが採択され、国際社会の大きな流れのなかで、当然日本企業にもSDGs達成に貢献することが求められている。だが、17目標・169ターゲットと課題も幅広く、優先順位付けが必要だ。企業はいかにしてSDGsを「自分ごと化」し、経営に統合できるのか。(川村雅彦 オルタナ総研所長・首席研究員)

社会的課題の集大成

国連のSDGsは、2030年に向けた持続可能な社会の実現のための「地球規模の優先課題」と「世界のあるべき姿」について、17目標・169ターゲットとして整理されたものである。

これは国連加盟193カ国すべての政府が合意した「持続可能な開発アジェンダ2030」に基づくもので、世界中の企業にもSDGs 達成への貢献を呼びかけている。

このことを企業側からみると、単なる社会貢献活動が要請されているのではなく、本業のプロセスとプロダクトにおける取り組みと成果が求められているのである。コンプライアンスを超えたCSRとして、責任ある倫理的な企業行動の実践に他ならない。

なぜならば、I S O26000(社会的責任の手引)によるCSRの定義は「企業の意思決定と事業活動が社会や環境に及ぼす影響に対する責任」だからである。この影響にはプラス・マイナスの両面があるが、企業がそれらを把握するためには社会的課題の理解が不可欠だ。

その意味で、SDGs は17目標(貧困、飢餓、健康、教育、性差、水と衛生、エネルギー、雇用、社会基盤、格差、都市居住、生産と消費、気候変動、海洋生態系、陸域生態系、包摂、パートナーシップ)という形で、グローバル・アジェンダを網羅的に示している。

他方、SDGs も指摘するように、社会的課題は各国・地域の経済・社会状況によって異なる。

世界各地にはそれぞれの歴史・宗教・文化などを背景に、地域固有の社会的課題(ローカル・アジェンダ)がある。先進国にも社会的課題が少なからず存在する。米国ではマイノリティ問題や貧困地区の社会開発、欧州では雇用創出・安定や就業能力の向上など。

日本でも人口減少を伴う急速な少子高齢化による育児や介護、雇用の多様性、仕事と生活の調和などが課題だ。

「社会基点」のアプローチ

SDGsを企業経営の中枢に組み込む(統合する)ためには、企業価値の創造と毀損防止の観点から、まずSDGsの中から自社の重要経営課題を特定する必要がある。

これはSDGsの項目すべてに愚直に取り組むことを意味しない。日本企業の思考性癖である、「すべてに対応しなくてはならないのではないか」という思い込みを払拭する必要がある。

SDGs の企業向け導入指南書ともいうべき『SDGコンパス』は、この点について次のように強調する。

すなわち、「17のSDGsすべてが各企業にとって等しく重要であるわけではない。各目標に対して各企業が貢献できる程度や、各目標に付随するリスクや機会は、多くの要因に左右される」。

それではSDGsの中から何をどのように選べばよいのか。基本的には次のような手順になる。

① 社会的課題と自社特性の関連付け
②重要な取り組み課題の特定
③課題の優先順位付け

ISO26000(7章)ではこれを関連性、重要性、優先性と表現するが、社会的課題から企業経営を考えるという意味で、筆者は「社会基点」と呼んでいる。

SDGコンパスは、企業がSDGsを経営に統合できるように、5つのステップ(①SDGs を理解、②優先課題を決定、③目標を設定、④経営へ統合、⑤報告とコミュニケーション)を提示している。

このなかで効果的な手法なのが、「バリューチェーン・マッピング」と「アウトサイド・イン・アプローチ」である。

自社の環境的・社会的影響の把握と評価のためには、供給・調達・物流から生産・事業を経て製品・サービスの販売・使用・廃棄に至るバリューチェーン全体を見ることが出発点となる。

そこで自社のバリューチェーン・マッピングを行い、SDGs の諸課題に対する現在と将来において負または正の影響を及ぼす領域を特定する(図表参照)。

アウトサイド・イン・アプローチ(社会基点)はインサイド・アウト・アプローチ(企業基点)の逆で、(将来)何が必要かを外部や社会の視点から検討し、経営判断や目標設定を行うことである。

気候変動でいえば、現在できることの積み上げではなく、プラス2 ℃目標と整合する2050年のCO2排出量を戦略的に設定することだ。

日本のSDGs先進企業

SDGsから自社の優先課題を特定するには、その狙いや問題意識を十分に納得した上で、「自分ごと化」することが肝要である。このような認識に基づき、SDGs 達成への貢献をコミットする日本企業が登場してきた。

NTTは、SDGs への賛同を表明し、ICTを活用して社会的課題の解決に取り組む。住友化学は、SDGs への貢献を表明し、技術・製品、レスポンシブル・ケア、社会活動で取り組む。損保ジャパン日本興亜は、新たなCSR重点課題を策定し、SDGsへの取り組みを公表した。

伊藤忠商事は、SDGs がビジネスに与える影響を議論し、社員向けのSDGs ビデオを公開した。富士ゼロックスは、経営重点テーマの特定にあたり社会的課題から機会とリスクを分析し、SDGsとのつながりを明確にした。

今後、SDGs を経営課題と位置付ける企業がさらに増え、持続可能な社会の実現に近づくことを期待したい。