ESG情報発信のススメ (2) GPIFの動向~ESG情報の拡充に影響大?![オルタナ総研 事務局長 / サンメッセ株式会社 執行役員 営業企画部長 田中信康]

世界最大規模の機関投資家、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が昨年9月、国連「責任投資原則」に署名したことはエポックメイキングだった。国内におけるESG情報発信は、開示内容の拡充を積極化している。(オルタナ総研 事務局長 / サンメッセ株式会社 執行役員 営業企画部長 田中信康)

ノルウェーの政府投資ファンドであるソブリンウェルスファンド(SWF)は昨年、初めて資産配分を取り崩した。しかしここ最近は、その投資収益を増やすべく、株式比率を70%(10%UP)に拡大している。一方で、債券を取り崩すよう勧告したといわれており、およそ800~900億ドルの資金移動が数年かけて行われる見通しだ。

国際イニシアティブ業界のGlobal Sustainable Investment Allianceによると、2014年の運用資産は約2500兆円に上り、約2年で61%増加している。機関投資家の運用総額の約3~4割を占めるともいわれており、「責任投資」や「ESG投資」というキーワードはもはや過小評価できず、国内外において日本株の動向にも大きな変化が見られる。

ESGの一般的な指標として、環境や女性登用の取り組みなど財務情報以外の開示がイメージされる。既にCSRだけでなくIRのマーケットにおいても、積極的に非財務情報の開示を進める企業もいる。

非財務情報は、「コーポレートガバナンス報告書」や「統合報告書」などで積極的に開示されている。企業には、持続的な成長と中長期的な企業価値向上の戦略、ESGを重要な要素とした情報の開示が求められている。

一方で、投資家の重要な役割となるのは、投資先企業に長期的な企業価値の向上を促し、収益の最大化を図ることだ。企業との「高質な対話」と適切な議決権行使がよりいっそう求められている。

■ 20年先を見据えたGPIFの「超」長期投資

今年9月末に開催された東洋経済新報社主催のフォーラム「ESG・CSV Trend 2016」で、GPIF理事兼CIOの水野氏の講演を拝聴した。

「インベストメントチェーンにおけるWin-Win環境の構築を目指して~スチュワードシップ責任とESGの観点から~」と題した講演では、主にアセットオーナーとしての考え方と投資スタンスについて語られた。

GPIFは最近、巨額の評価損を計上し、メディアでもネガティブな話題として取り上げられている。

その規模の大きさから「クジラ」と称されるGPIFは、開示情報などにもQRコードを付与し、Webサイトだけでなく、YouTubeやTwitterなどへの情報公開を積極的に行っていることに好感が持てる。

元々ユニバーサルオーナーとしてのスタンスは、「超」長期投資家である。株式運用における比率としては、国内外株式の約80%以上がパッシブ運用であり、2015年3月末時点での国内保有株式は2037銘柄、海外株式は2665銘柄を保有している。

文字通り、超長期投資家であり、投資スタンスは他に類を見ない。5年先より、10年先。10年先より20年先といったスタンスで、リスクはより顕在化する傾向にある。だからこそESG側面をしっかり吟味する必要があるともいえる。

通称「カニの画」(※図参照)と称されるこの図表を見れば、国内株式の7~8%の保有(GPIF保有株式リストは、同Webサイトご参照)を開示しているGPIFが「建設的な対話(エンゲージメント)」こそ使命であり、中長期的な企業価値の向上とリターンを期待することが投資先企業や運用受託機関とのWin-Winの望ましい連鎖になることもうなずける。

(図表)
GPIFが果たすべき役割 ~Win-Winの望ましい連鎖~
GPIFが果たすべき役割 ~Win-Winの望ましい連鎖~
※年金積立金管理運用独立行政法人Webサイトより引用

■ 「企業・アセットオーナーフォーラム」の設立

重点課題は、「持続的な企業価値の向上」×「資本市場の効率性向上」である。日経の報道にもあった通り、今後の取り組みの具体策として、オムロンやエーザイ、日産など複数企業と「企業・アセットオーナーフォーラム」を設立する。

企業との継続的かつ建設的なエンゲージメントを行い、運用受託機関や海外のアセットオーナーとも「グローバル・アセットオーナーフォーラム」を設立し、インベストメントチェーン全体の最適化と効率化を目指すという。

しかし現実では、こうした生々しいエンゲージメントを行うほど、双方のリスクも感じられる。企業側が各種報告書でディクローズしている内容を事前学習もせず、ミーティングを行っている事実も少なくないようだ。

このような状況で、GPIFの運用委託先が優れた「コーポレートガバナンス報告書」や優れた「統合報告書」を公開している企業を選び、情報開示に積極姿勢を示す企業を推し、企業側と運用側全体の底上げに寄与していることは実に印象的だ。

同時にGPIFは、国内株式を対象としたESG指数の公募を行うことを公表している。

既成のインデックスでは、満足に提供できない指標を、環境・社会問題などのネガティブな外部性を最小化することで、ポートフォリオの長期的なリターンの最大化を目的にしている。

サステナブル投資の議論は、UNEPをはじめ各所で議論がなされているものの、株価形成に対して具体的に突っ込んだ協議はなされていない。

海外公的年金のESG指数運用に関する取り組み事例などを参考にし、GPIFが最終的にESG要素を株価形成に反映することを考慮する意義は大きい。

ESG情報を発信する企業側、またそれを分析する運用会社側の経験値は、間違いなくより高まりを見せる。これらが示唆する先には、経営の透明性があり、その優位性は未だ確実な形として図れぬものの、間違いなくリスク低減には貢献するだろう。

年金運用のサステナビリティ戦略の本格的なメインストリーム化への期待が高まっている。